「手に入る」「安い」は1位のみの存在価値
いわゆる型番商品と呼ばれる、メーカー品を販売する小売業の存在意義とは何でしょうか。その定義がしっかりとなされている企業はやはり強いです。
例えばamazonは「安く買える・早く届く」という購入体験。楽天市場は「楽天ポイント」という楽天経済圏内での価格メリット。Yahooショッピングは、ペイペイモールを開始する今からが本番ですが、本来の強みであった「検索」に特化した「(日本人が)どこよりも探しやすい」という検索体験。
大昔の小売業の存在価値であった「手軽に手に入る」は今や当たり前、「安さ」は一番のみの称号であり、他社と同じ値段で手に入るということだけでは存在し続けられない時代となりました。「安さ」だけを売りにしている小売業は、「一番安くないと売れない」という危機感をしっかりと認識しましょう。
何を価値とするのか
上記に書いたamazonや楽天、Yahooなどの事例を、「資金力がある会社だけができること」と思われている方が多いのではないでしょうか。では中小の小売業ではどうすればよいのか。
まずは「モノ」ではなく「コト(体験)」を売るということ。販売したモノを使って体験できること、得られることを売り出そうというアプローチです。 言われてもう3、4年は経ちますが、今まだにそれすらできていない小売業があります。もしくは、そのアプローチの「方法」がわからないと言われる企業も多いようです。
しかし、「コト」もあと1年2年でコモディティ化してくるでしょう。ありとあらゆる「体験コンテンツ」があふれ、「体験コンテンツ」に疲れるユーザーが多発するでしょう。
それでは次の時代は何なのか。その答えをここに書きます。
「私に”最適”を与えてくれる人」
「モノ」の次に「コト」、そして「コト」の次は「ヒト」です。間違いありません。
「現代人が1日に触れる情報量は、平安時代の一生分、江戸時代の1年分」と言われています。溢れる情報、溢れる体験コンテンツ。毎日のようにありとあらゆる場所から通知が届く毎日で、仕事や家事や育児をしながら情報を処理するのにも限界があります。
また、SNSやハイパーコネクテッドの時代となり、個人の趣味やニーズも多様化、細分化してきているのもあり「パターン」にハメづらい時代となってきています。
さらに時代が進み、マズローの欲求のテッペンである「自己実現」もかなりの高さで満たされる時代になってきています。今後はさらにその上にあるとされる「自己超越」へと向かう時代に、どのようなことが求められるのか。
その答えは、『様々な情報を収集し、判断し、編集し、構成し、最適な状態にして表現するできるヒト』です。「私に”最適”を与えてくれる人」が価値を持ちます。
結果として求められるのは『相手を納得させることができるヒト』です。
そういった「ヒト」が価値を持つ時代が来ています。
どのように対策していくか
「相手を納得させることができる」というのは少し前世代の表現かもしれません。今後は「自分とマッチする人」を見つけることがさらに容易な時代になってきます。しかも顧客側が能動的に「自分に合う人」を見つけることができる時代になります。
そういった状況の中で重要になってくる認識は、「今まで以上に細部化されて存在する顧客(スモールマス)」という概念であり、大きなマーケットよりも、小さなマーケットでシェアを握り、その数でボリュームを稼ぐというスキームが基本となります。
- 世の中にどのような編集ニーズ(どう在りたい、どう見せたい等)が存在するか
- それはどのようなユーザーが求めているのか
- その人たちはどんなヒトから聞きたいと思っているか(誰に言われたいのか)
- ユーザーがそのヒトから得られる心理的満足、体験的満足はどういったものか
まずはこのあたりを設計することが最重要です。
つまり「どのようなユーザーの、どのような心理に、どう応えることができるか」をいかにして明確にアプローチする(伝える)ことができるかということ。いわゆるブランディングです。が、今までのブランディングと違うのは「顧客の思考がベースである」ということです。
これらを設計するためには、まず「自分(自社)がどのような強みを持つのか」「自分(自社)の強みとマッチするユーザーはどのカスタマージャーニーなのか」この2点に絞る必要があります。その次に、そのユーザーに何を見せるか(コンセプトや手法)を検討していくのです。
小売業は「個人」を売っていく
「この人に聞きたい」「この人に教わりたい」「この人と一緒にいたい」「この人とい仲間になりたい」そういった関係性を構築していくことが今後一番価値を持ってきます。
つまり、企業やお店の場合は「どんな従業員が存在しているか」が重要になるのです。もしくは、「今いる従業員をどのようにポジショニングするか」が重要な経営課題になります。
ただ単純に商品を並べたりレジ打ちしたり掃除したりしてもらう人も、まだ当分重要ですがあと数年ですべて機械化されます。しかし「この人に頼みたいから」「この人に会いたいから」という存在価値を持つ企業やお店は、取り扱う「モノ」の量や価格とは関係なく長期的な継続経営が可能になるでしょう。
WEBSHOP(オンライン)では難しい?
WEBSHOPなどの「対面ではないコミュニケーション」しかできない取引上で「ヒト」に付加価値をつけてアプローチすることは難しいと思われる方は多いようです。しかしそれは間違いです。
「ヒト」に価値をつけるということは結局『ブランディング』です。『ブランディング』は、現状をきっちり分析し、設計し、長期・継続的に活動すれば必ず効果が出るものです。ただし志と強い意志をもって本気で取り組まない限りは成功することはありません。
小売業に関わらず、今後「個人ブランディング」は個人にも法人にも非常に重要なキーワードです。私(自社)には関係ないと思っている方も大勢いらっしゃるかもしれませんが、この先5年程度で全人類が取り組むべき課題になってきます。